馬が草を食んだ島 ——『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』を読んで
きっかけは、YouTubeの「積読チャンネル」で観た馬だけが暮らす楽園はなぜ生まれたのか」という回でした。
北海道・根室半島の沖に浮かぶ、ユルリ島。
人の上陸が厳しく制限された無人島で、約300種の植物が生育しているといいます。
そしてその豊かな植生をつくったのは、島に残された馬たちの「食べる力」だった——。
ちょうど、草の「高刈り」について考えていたところでした。
どこを低く刈り、どこを残すのか。
「お、これは」と思い、岡田敦さんの『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』を手に取りました。

■ 馬が描いた景色
かつて昆布漁の人たちが暮らしていたユルリ島。
最後の島民が島を離れたあとも、馬だけが残されました。
馬は背の高い草やササを好んで食べます。 すると、その足元にある低い花々にまで光が届く。 ヤチランやトキソウといった希少な植物が咲き、 島は花畑のような景色になりました。
面白いのは、すぐ隣のモユルリ島。 大きな草食動物がいないこの島は、ササに覆われているそうです。
同じ海、同じ風のなかで、景色を分けたのは「誰が、何を食べたか」でした。
読みながら、思い出した光景があります。
先日、いま開拓しながら実験を続けている我が家の耕作放棄地で、 何度目かの高刈りをしていたときのこと。
イネ科の草の脇から、双子葉の植物が葉を広げていました。
名前はまだ分かりません。 けれど、背の高い草に覆われて光が届かなかった地表から、 ようやく芽を出した命であることは確かでした。
背の高いものを抑えて、低いものに光を渡す。 ユルリ島の馬たちがしてきたことは、 私が鎌を手にやろうとしていることと、同じなのかもしれません。

■ 馬たちの目
ただ、この本はそんな「良い話」だけでは終わりません。
近親交配を避けるため、生まれた牡馬は間引かれ、 やがて牡馬は島から引き上げられ、牝馬だけが残されました。 その景色を守ってきた馬たちは、 いつか島からいなくなることが決まっていたのです。
それでも、写真に映る馬たちの目は、 身勝手な人間を恨むでもなく、 遺棄された身の上を憐れむでもなく、 ただ静かに、強く逞しい生の光を、まなこの奥に宿らせていました。
■ 読み終えて
牡馬を間引くか入れ替えるかしなければ、近親交配が馬たちを危険に晒します。
けれど、それには人の手による管理が欠かせません。
手間をはじめ、難しい課題はいまも残っています。 そんななか、2018年には3頭の仔馬(牡馬1頭・牝馬2頭)が島に迎えられました。
人が手を離し、牝馬だけで放っておけば、やがて馬は消えます。 馬がいなくなれば、限られた種が島を占め、 いまのユートピアのような景色も消えていくでしょう。
人が生きるための営みとして連れてこられた馬たち。
その馬たちによってつくられた、準人工的とも言える豊かな生態系。
それなのに、そこに至るまでの営みは、 どこまでも自然の逞しさによる、自律的なものでした。 この島の景色は、そんな矛盾を孕んでいるように見えます。
庭も、同じです。
人の手をどれほど入れることが、 そこに生きる木々や、集まってくる動物や虫たちにとって最善なのか。 その答えは、探しても見つかりません。
そもそも自然をコントロールしようとすること自体が、 人の傲慢なのかもしれない、とも思います。
悲しくて、美しい本でした。 庭や土のことを考えている方にも、そうでない方にも、手に取ってみてほしい一冊です。 --- 『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』岡田敦(インプレス/2023年)




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